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会員の新刊のご紹介(2023)

藤井則行詩集「日めくり暦」

四六判103ページ、紫陽社刊2200円(税別)

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 長く県内の児童文学誌「ぱらぽっぽ」を刊行してきたふくい児童文学会代表を務め、日本児童文学者協会名誉会員でもある詩誌「果実」同人の藤井則行さんが90歳を機に、30年の間に思いを綴った現代詩の中から、27篇を選んで刊行した玉珠のような新詩集。
 表題詩の「日めくり暦」は、子どものころめくるのが「私の役目」であった、居間の日めくり暦の新しい1枚をめくり取った「新鮮な一瞬が好きだった」という思い出から、それがだんだんと薄れてきた老いの中で、「子どもころのように」戻りたいという詩。
 この詩に代表されるような、誰もが老いてなおさら痛感する新しい日々への渇望や、本、酒、伴侶といった大好きなものへの変わらぬ温かい思いが、伝わってきて心がほっこりする詩集。優しくちょっとシャイな藤井さんの微笑んだ顔が浮かんでくるようだ。

 

黒田不二夫詩集「草の声 樹々の声」
ソフトカバーA5版84ページ、ワープロセンター・ホープ印刷所刊、1500円。

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福井県詩人懇話会代表で、県内の同人詩誌「果実」同人の黒田不二夫さん第5詩集。2019年から2023年までの6年間に「果実」や「ふくい詩集」に発表した作品に手を加えてまとめた、花や草木を表題にした33編の作品を収めた。

 この時期には、コロナ禍が猛威を振るったり、ロシアのウクライナ侵攻が始まったり全世界が激動。また、異常気象や地震といった自然災害も相次いだ。そういった社会情勢も反映された作品もある。その中で、「ふくい詩集2023」に収録された最新作「私の高見順」は、三国にある高見の荒磯碑を訪ね、周囲に生い茂る野草などの自然に目を向けながら、先人に思いを馳せる黒田さんらしい落ち着いた心が安まる作品。自然体で続けてきた創作活動を反映している。

前川幸雄詩文集「八十五歳の思い」
土曜美術社出版販売刊A5判109ページ

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 福井県詩人懇話会の長老の1人で顧問を務め、漢文などを含む文学総誌「縄文」の主宰者でもある前川さんが「現況」を著わした。
4部構成で、第1部の「ゴッホと共に」は著者の愛好する画家の「ひまわり」など5点の作品や展覧会に寄せ、第2部の「家族の中で」は、兄姉や岳父、母などに寄せた詩を掲載。第3部は、中野重治、則武三雄、渡辺本爾、千葉晃弘の詩集からの思いなど、いわゆる詩論に陥らない前川さんなりの解釈での講評。第4部は、中野重治の「詩の世界」や、「愛聴歌」という高橋真梨子、越路吹雪、テレサ・テン、さだまさし、中島みゆきの「歌」を巡っての思いを綴っている。締めくくりに前川さんの専門である中国文学の分野から、漢詩「夢三題」、明治期から昭和にかけての福井出身の「平和主義の詩人」で中国学者についての「橋川時雄の生涯」で結んだ。

ふくいの戦後詩断章 -南信雄・岡崎純・中野重治・中野鈴子-
 関 章人著    四六判423ページ   土曜美術社出版

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 「新」詩論・エッセイ文庫の第4巻として出版された関章人さんの詩論随筆集だ。刊名として挙げた人たちの4章に「敗戦直後の三国の文化運動」を加えた全5章構成。1994年3月の「青磁」から2022年7月「角」まで、県内文芸誌などに掲載したものを再配置しているが違和感はない。
関さん自身あとがきで、南信雄、岡崎純、小辻幸雄の3氏の薫陶を受けての「私的回想」「私記」と書く。しかし「最も早い「青磁」掲載の「体の中を風が吹く-もうひとりの鈴子-」から「岡崎純」の章の最後に入る「小辻幸雄の青春をたどる」という追悼文至るまで、第二次世界大戦後に福井県という土壌で醸成されてきた現代詩の系譜、現われた多くの登場人物とその作品を挙げながら、紡ぎ上げる詩論には揺るぎがない。
 関さんが直接関わった多くの詩人や、また直接は関わらないものの影響を受けた詩人らの人物像や作品、文学性などが少々欲張りすぎに感じられるほど網羅された労作である。

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